1月30日(土)の福島民報さんと福島民友さんにて大きく特集して頂きました(笑)
平成28年1月30日(土)(記事:福島民報社)
★主催者あいさつ
東日本大震災から間もなく五年が過ぎようとしている。双葉郡は原子力発電所事故による住民の避難が長期化し、先が見えない状態が続いている。住民の帰還も進まない中、既に戻っている私たちは地域の存在感を示すため、一生懸命に生きていることを伝えようと思った。そして双葉郡に集う人々が心と体、行政も一つになった新しいまちづくりを目指す。今後、原発の廃炉に向けた研究機関や中間貯蔵施設が整備される。私たちは将来の姿を描いて、戻って来る人、新たに住もうとする人と手をつなぎ行動したい。(NPO法人ハッピーロードネット理事長・西本由美子)
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昨年12月20日、広野町中央体育館で開いた櫻井よしこ氏講演会とパネルディスカッション「いわこそ双葉がひとつになるとき!」を紹介する。
★桜井よしこ氏講演(要旨)
ハッピーロードネットの西本さんが心のこもったメッセージを発しました。「福島に住む我々は、もう新しい地平に立たなければならないんだ」。震災から五年が経過しようとする今、まさに一歩を踏み出す時に来ています。
私は「福島の人たちは、なぜもっと積極的になってくれないのかな」と感じています。皆さん、人生というのは後ろ向きの材料を探せば、いくらでもあります。その中から、どうやって日本人が過去の災害などの問題を乗り越えて来たのかを知ってほしい。前向きのエネルギーを共有し、同じ方向を向いている人と助け合っていくことを考えなければならないのです。
西本さんたちはチェルノブイリ近くのスラブチッチを視察したと聞きました。人々は、そこで立ち直って幸せに暮らしています。特にスラブチッチは医療環境に優れ、出生率が高く、子供が幸せに育つ理想の街です。住民の協力に加えウクライナ政府、医療関係者、科学者の助けもあった。それぞれが新しい未来をつくろうと理想と熱意を持って実現させました。
先ほど原発の廃炉の話が出ました。世界中の原発は必ず、いつか廃炉にしなければならない。政府は、この福島を廃炉研究の拠点にしようとしています。それなら原子力や放射能を勉強する学園都市を目指すのもいい。対応する医療機関をつくってもいい。未来を考える積極的な姿勢を見たいと感じています。
また、福島の人たちが戻るために放射線の現実を、どこまで許容できるか理解を進めるべきです。科学的な視点で安全と安心の基準を分けて考え、問題点を整理すれば、一人一人が判断しやすくなるはずです。
いいまちづくりは人々が協力しなければできません。廃炉や中間貯蔵施設などの作業で働く人の中にも、福島を魅力的な古里に、と思う人がいます。福島に誠実に向き合う人も同じ住民、福島県人だと受け入れる枠組みを広げてください。
【復興への役割を果たす】
開沼氏 震災後、双葉郡のつながりの多くが失われました。復興を進め三十年後、五十年後の地域を創造するため、双葉が一つになることは重要です。今回は、どんな未来図を描くかを考える場にしたい。さまざまな取り組みをしてきたパネリストの皆さんに思いを話していただきます。
遠藤氏 私はこの中で唯一の双葉郡出身者です。高校を卒業してから地元を離れていました。三十五歳で古里に戻ると決め、開発途上国で仕事をした後、地域の活性化の力になりたいと帰って来ました。三年間、多くの人と知り合い、これからという時に震災に遭いました。当時、富岡町長だった父と話した際、父は「今の会社は双葉郡の町村と県に育ててもらった。復興の最前線で、しっかり恩返しをしてくれ」と言いました。私は復興再生のため気持ちを切り替えなければ、と決意したのです。
開沼氏 まさしく復旧・復興の現場にいる原さんにお願いします。
原氏 私は楢葉町と双葉町で環境省から請け負った仕事をしています。現在、楢葉では家屋の解体と追加除染を、双葉では除染とがれきの分別、中間貯蔵施設のパイロット工事をしています。除染作業は当初マニュアルがなく、日々、苦労しながら進めてきました。中間貯蔵施設も試行錯誤しながら取りかかっているところです。
開沼氏 福島県をはじめ各地で支援活動をしている黒川さんは、いかがですか。
黒川氏 私は埼玉県狭山市で運送業を営んでいます。地域活動に興味を抱いて狭山青年会議所に入会し、震災の年の二〇一一年に理事長を務め、被災地支援に乗り出しました。私は宮城県気仙沼市を中心に活動しました。翌年、日本青年会議所の復興支援委員長を任され、その後も噴火や豪雪、水害などの被災地に駆け付けるようになりました。
開沼氏 櫻井さんには講演をいただきましたが、あらためて思いを聞かせてください。
櫻井氏 自分は福島に、どういう役割を果たせるのかを常に考えています。チェルノブイリやスリーマイル島の事故はどうだったのか、どうして立ち直ったのかなど客観的事実を伝えることが、参考になると思ってきました。双葉郡の方には段階ごとに問題提起しています。耳に痛いことも必ず役に立てると思い、これからも発言していきます。
【広域的な連携が必要】
開沼氏 今、どういう課題があるのでしょうか。遠藤さんの考えを聞かせてください。
遠藤氏 私は富岡町の第二次復興計画づくりにインフラと産業の部会長として携わりました。町の計画でありながら時間の経過とともに単独でやれることが限られていると感じました。広域的なインフラ整備を考え、地域の基幹産業をどうするのかが課題です。震災前は日本有数の電源地域でした。目の前にあるのは廃炉しかない。廃炉だけでは以前からの住民の働く場が限られる可能性がある。一町一村ではなく、双葉郡全体で青写真を描く必要があると思います。
開沼氏 町村単体では解決できない。さまざまな連携が必要ということですね。原さんは地域との共生をどう考えますか。
原氏 私は楢葉町に三年半前に来ました。当時は荒れた光景に、本当に除染や復
興ができるのか心配しました。作業を進め、楢葉町が避難区域解除になった時「やって良かった」という感動に包まれました。その間、最大三千五百人の作業員が特別許可を得て楢葉町内に住みました。プレハブ生活はきつく、きちんとした住宅で暮らしたいのが本音です。若い作業員は結婚し、いわきで暮らす者も増えましたが、通勤を考えると近くに住みたいとの声が出ます。今後、住環境に限らず、地元の皆さんに相談や提案をしますので、よろしくお願いします。
開沼氏 国内では地方で若者の定着に苦労しています。不幸な事故が原因でも、ここは若者が集まり仕事をしている現実があります。一方で作業員と住民の間で、まだ理解できない葛藤があるのも事実でしょう。長期的に共生を進めるのが重要となります。外から見る立場で黒川さんは、いかがですか。
黒川氏 支援する気仙沼は「海と生きる」をキーワードに復興に励んでいます。海によって多くが失われても海と生きようと頑張っています。非常に言いづらいですが、私は「福島の方々が何をしたいのか」と疑問に思うことがあります。埼玉で福島の野菜を販売したり、国道六号沿いに桜を植える「桜プロジェクト」に協力し寄付を集めると感謝されますが、その先に何をしてもらいたいのか聞こえて来ない。触れてはいけないのかと一歩引いてしまうのです。
開沼氏 率直な意見で重要だと思います。どこかアンタッチャブルな点があると感じるようです。櫻井さんの意見をうかがいます。
櫻井氏 アンタッチャブルなのは何かというと放射能ですよね。日本では過去に克服した例があります。原爆が投下された広島、長崎です。政府は昭和二十五年の人口動態調査で被ばくした二十万人を選び、詳細な状況を調べる健康調査をしました。原爆手帳を渡して国が医療費を負担しながら調査を続け、記録を世界中の研究者に役立ててもらいました。広島、長崎の人は病気に対する意識が高く、どこよりも健康です。福島の人こそ、もっと声を上げるべきです。政府に「一人一人に線量計をください」と要求し、記録する医療体系をつくるのはどうでしょう。福島を日本一の医療県にして、世界の研究者に不幸な事態になったが、その記録を生かしてほしいと言ってください。
【オール双葉で夢実現】
開沼氏 今後、双葉郡は「オール双葉」で、どのように復興に取り組むべきでしょうか。
遠藤氏 産業面で世界が注目する廃炉に関する技術を育むことは素晴らしい。加えて新たなエネルギー研究を進め、廃炉後の跡地に新発電所を建設するのも一案でしょう。インフラついては、浜通りと中通りを結ぶ横の道路網整備が復興の鍵となります。国際的な研究をする地域なら空港へのアクセスは重要。福島空港と東北、磐越両自動車道を結ぶ、あぶくま高原道路を延伸し川内村から常磐自動車道へつなぐ道を、ぜひ実現させたいです。
開沼氏 とても熱い思いが伝わります。原さんは、いかがですか。
原氏 双葉郡内は地元の皆さんが帰る前に多くの工事関係者が住んでいます。私たちが暮らしやすく、十分に消費ができる環境を、つくっていただけないでしょうか。商工会などが連合で商業施設を設けたり、マンション・アパートを造って我々に貸してもらえるなら相当な経済効果が生まれます。研究機関などの進出が相次げば、その仕事も増え、資材や機械を納める工場なども近くに張り付くようになるでしょう。
開沼氏 なるほど。単に作業だけでなく、いろいろな糸口で地域への関わりが見えますね。黒川さんは、どう考えますか。
黒川氏 被災地に必要なのは残すもの、諦めるもの、新たにつくるもの、よそものの四つの「もの」をどう生かすかということです。気仙沼を例に挙げれば残すものは海、諦めたのは打撃が大きい旅館などの施設、新しくつくったのは防災やボランティア体験の修学旅行です。よそものの利用では水産加工業者の組合が商社との取り引きで効果を上げています。双葉郡八町村も何を残し、何を諦めるのか、子供のため何をつくるのか、私たちのようなよそものをどう利用するかを考えてほしいと思います。
開沼氏 震災後の地域づくりで双葉郡からも成功事例が出るようにすべきですね。櫻井さんは、いかがですか。
櫻井氏 双葉郡や福島県が大変なことは理解しますが、その大変さに負けないことです。福島での体験を幸せなものにし、つらいものにしない。例えば東京オリンピックの聖火リレーは「福島に行ってあげる」と思わせてはいけません。「福島を走らせてもらえる。うれしい」と思う雰囲気にしなければならない。発想を転換し、助け合って前向きに生きましょう。
開沼氏 地元には、まだつらい立場にいる方がいます。双葉郡に暮らしている、または住民であること自体が周囲に「つらいだろう」「苦しいだろう」と思われてしまう。そうではないのだ。いろいろな可能性が生まれ、新しい生活や営みも始まっている。それを示していくことが肝心なのかもしれません。
◆講師・パネリスト
櫻井よしこ氏 国家基本問題研究所理事長
◆パネリスト
遠藤 秀文氏 (株)ふたば代表取締役
黒川 進氏 (公社)日本青年会議所2012年度復興支援委員会委員長
原 稔氏 前田建設工業(株)東北支店環境省関連工事統括所長
◆コーディネーター
開沼 博氏 福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員
平成28年1月30日(土)福島民報社