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双葉地域に「希望のまち」をつくれるか? 東日本国際大学 経済情報学部教授 福迫 昌之 現在我々と同じ意見を持ち協力頂いている、東日本国際大学の福迫教授の記事です。双葉郡に「希望のまち」がなぜ必要かを分かりやすく書いて頂いております是非ご一読ください。
~地域研究だより~ 双葉地域に「希望のまち」をつくれるか? 東日本国際大学 経済情報学部教授 福迫 昌之
 震災発生から3年が過ぎる。この間、状況は刻々と変化しつつも、発生直後からほとんど変わらないものも多い。例えば双葉郡住民のいわき市の流入など、大方が早い段階で予想された、あるいは現実化していた事態である。…  双葉郡の現状も、個別的には予想外の事態も発生しただろうが、大部分は想定の範囲で推移している。原発事故後、放射能汚染の実態が明らかになった時点で、現在の状況のみならず、その延長線上であるとすれば、これからの行く末もある程度想定できた。裏を返せば想定外の事態に対し、想定外の対応をとることができない、ということであり、無力感を覚える人々も少なくない。  しかし、技術立国であり経済大国でもある日本が、世界に類を見ない原発事故を起こし、結果周辺地域を「死の町」としてしまうことは、国の威信にかかわる重大な事態である。まして2020年東京オリンピックの際に「コントロールされている」はずの地域が消滅していたとすれば、日本の国力と信頼の低下は免れない。そして、最もその影響を被るのは福島県、とりわけ浜通り地方の中心都市であるいわき市であることは疑いない。   双葉郡がなぜ原発立地地域となったのか。その歴史的背景を顧みれば、原発事故により廃炉を余儀なくされたことだけでも、財政基盤を失った町村のとるべき道は限られるし、その選択肢の一つが合併であろう。日本が人口減少段階に入り、地方にその傾向が顕著に現れることが、半ば常識化している状況下で、被災地の町村だけが夫々発展するような復興の青写真を描くことには無理がある。市町村合併の功罪は様々な議論があるが、少なくとも地域存亡の危機に直面し、その議論が出てこないこと自体が不自然ではないか。  無論廃炉には相当な時間を要することから、原発周辺地域にいわゆる廃炉ビジネスに関連する産業集積が不可欠である。電力、原子炉、建設、 一般機械、ロボット、計測機器、医療、廃棄物処理など多様な分野の産業およびそれらの研究拠点となることが双葉地域の使命であり、それは地域復興の担保でもある。ただ、それも現状の延長では、労働者が往来する巨大な「作業の場」にしかならず、双葉地域が結集し、拠点として整備することによって「生活の場」としてのまちが形成され、復興が現実化する。  いずれにせよ福島県浜通りの、双葉地域の現実的な再生のためには、双葉郡の抜本的な再構築が不可欠である。震災発生以来、復興庁や双葉郡各町村では定期的に「住民」アンケートを実施しているが、確実に帰還希望者は減少している。また、帰還希望の割合が高いのは高齢者層に偏っており、逆に子育て世代、若年層の割合は低く、さらに回答者母集団自体の年齢層や回答率を考慮すれば、現状の延長線上に未来像を描くことは甚だ困難といわざるを得ない。  ただ帰還希望者の減少を、地域アイデンティティの消滅あるいは欠如と断じることは出来ない。むしろ、「避難者」のまま塩漬けにされるという特異な状態を抜け出し、避難先の住民として「生活者」に戻ったならば、その覚悟と努力に対し、必要な支援が行われるべきであろう。  事実、人間社会そして自然が持つ回復あるいは修正能力によって、人類は様々な困難を乗り越えてきた。しかし、修正の過程で多くのものが切り捨てられてきたことも摂理である。その瀬戸際に双葉地域があることを、肌で感じている人々も多い。  すなわち、時間の経過とともに他地域での「生活者」が増えていくとすれば、帰還希望者の中にまちを支え、まちをつくる人がどれだけ残っているだろうか。「まち」が「ひと」であることからすれば、それ自体が双葉地域の命運を握ることは言うまでもない。そのためには、まちを支える人、まちをつくる人が希望を持てるビジョン、そしてその人たちとともにまちをつくる仕組みが不可欠である。  チェルノブイリ原発事故からわずか4ヵ月後、旧ソ連政府(ウクライナ)は東50kmの地点にニュータウン建設を決め、2年余りで完成させたという。日本で進めるためには、政府のみならず地方自治体、そしてまちの住民を始めとする様々なステークホルダーがビジョンを共有し、協働の推進体制をつくるべきだが、決断とスピードについては学ぶ必要があるだろう。  地震大国日本で、現在予想されている大地震がどこかで発生したとき、東日本大震災が忘却の彼方になることは疑いない。その意味からも、「時間軸」がこれからの復興の最重要 テーマになる。もし地域エゴではなく、地域アイデンティティを発揮することができるならば、社会の修正能力によって双葉地域が消える前に、行政の壁をはじめとする様々なハードルを乗り越え、国力と人類の英知を結集した復興モデルを具現化することが可能になるだろう。